一昨日、2日(水)に渋谷のユーロスペースで広河隆一監督の映画「NAKBA(ナクバ) パレスチナ1948」(http://nakba.jp)を観た。1948年のイスラエル建国で難民にされてしまったパレスチナ人は、この事件のことをNAKBA(大惨事)と呼ぶそうで、この映画は、フォトジャーナリストの広河氏が40年間撮り続けてきた写真や映像を編集して製作されたドキュメンタリー作品である。このブログの昨年10月30日付記事に記した講演会で、映画作成中であると紹介されていたもの。

 映画は、パレスチナ難民側からだけでなく、ユダヤ人のさまざまな立場の人々にも取材して、デイル・ヤシーン村をはじめとした各地でのパレスチナ人虐殺事件などの実態や原因を追究し、またユダヤ人たちによって村を奪われた人々を探し出して事件を検証すると同時に現在の彼らの生活や心情も報告している。他方、パレスチナゲリラとして捕まり、6年間を拷問を受けながら収容所で過ごしたキファーという名の女性の生活も追っている。釈放後、難民キャンプで子どもたちを支援する施設で働いているが、彼女は外の世界に絶望して「収容所の方が好きだ」というようなことを口に出したりする。

 広河氏は、パレスチナ問題の解決策を示すわけではない。ただ事実を提示し、事実を見つめることを求めている。事実を共有することが解決の第一歩で、現状はパレスチナ人とユダヤ人が互いに異なる事実を見ながら主張しあっているだけだから、対話が成立しないと考えている。だからこそこの映画は、ユダヤ右派民兵組織の司令官などの主張も紹介している。

 広河氏の考えに最も近いのは、「マツペン」という、占領に反対するユダヤ人の組織だろう。ごく少数のメンバーでしかないが、機関紙発行やデモなどを行っていた。マツペンのメンバーの一人が、「アメリカのユダヤ人は合衆国国民になることを認められているのに、ここにずっと昔から住んでいるパレスチナ人がイスラエル国民になれないのは、シオニズムが民族差別を内包している証拠だ」というように主張する。パレスチナ人の居住を認めてしまったらユダヤ人は少数派になってしまう。これがパレスチナ人を追い出し、難民にしてしまう原因だと。

 私も確かにその通りだとは思う。しかし、ではイスラエルがパレスチナ難民の帰還を受け入れて彼らにイスラエル市民権を与えれば問題は解決するのだろうか。現在のイスラエル政府にそれを望むことが現実的かどうかを別にしても、これが解決策たりえるのだろうか。

 ディアスポラとホロコーストの被害者であったユダヤ人が、今度はパレスチナ人に対してディアスポラとホロコーストの加害者となっている。パレスチナ人とユダヤ人が「共存」する国になったとして、多数派となったパレスチナ人がユダヤ人との真の共存の道を取りうるだろうか。

 パレスチナ問題の原因がイギリスの二枚舌政策にあり、イスラエルによるホロコーストを支えているのがアメリカのダブルスタンダード外交にあることは、もちろん充分に批判され続けなければならない。それでも解決する道はどこにあるかを考えたとき、さまざまに絡み合った利害や主張の複雑さ以上に、人間の度し難さを前に呆然としてしまう。

 当日は最終回上映後にシンポジウムが開かれ、広河監督の話も聴くことができた。報道写真家である広河氏が映画を製作するにいたった経過をはじめ、「NAKBA」のフランスやレバノンでの上映の様子、会場での質問に答える形でのパレスチナ問題への自身の姿勢などが語られ、夜10時過ぎに終了した。会場は満員で立ち見の人もおり、250名ほどの入りだったようだ。

por Andres

Andres y Amelia映画・テレビ 一昨日、2日(水)に渋谷のユーロスペースで広河隆一監督の映画「NAKBA(ナクバ) パレスチナ1948」(http://nakba.jp)を観た。1948年のイスラエル建国で難民にされてしまったパレスチナ人は、この事件のことをNAKBA(大惨事)と呼ぶそうで、この映画は、フォトジャーナリストの広河氏が40年間撮り続けてきた写真や映像を編集して製作されたドキュメンタリー作品である。このブログの昨年10月30日付記事に記した講演会で、映画作成中であると紹介されていたもの。  映画は、パレスチナ難民側からだけでなく、ユダヤ人のさまざまな立場の人々にも取材して、デイル・ヤシーン村をはじめとした各地でのパレスチナ人虐殺事件などの実態や原因を追究し、またユダヤ人たちによって村を奪われた人々を探し出して事件を検証すると同時に現在の彼らの生活や心情も報告している。他方、パレスチナゲリラとして捕まり、6年間を拷問を受けながら収容所で過ごしたキファーという名の女性の生活も追っている。釈放後、難民キャンプで子どもたちを支援する施設で働いているが、彼女は外の世界に絶望して「収容所の方が好きだ」というようなことを口に出したりする。  広河氏は、パレスチナ問題の解決策を示すわけではない。ただ事実を提示し、事実を見つめることを求めている。事実を共有することが解決の第一歩で、現状はパレスチナ人とユダヤ人が互いに異なる事実を見ながら主張しあっているだけだから、対話が成立しないと考えている。だからこそこの映画は、ユダヤ右派民兵組織の司令官などの主張も紹介している。  広河氏の考えに最も近いのは、「マツペン」という、占領に反対するユダヤ人の組織だろう。ごく少数のメンバーでしかないが、機関紙発行やデモなどを行っていた。マツペンのメンバーの一人が、「アメリカのユダヤ人は合衆国国民になることを認められているのに、ここにずっと昔から住んでいるパレスチナ人がイスラエル国民になれないのは、シオニズムが民族差別を内包している証拠だ」というように主張する。パレスチナ人の居住を認めてしまったらユダヤ人は少数派になってしまう。これがパレスチナ人を追い出し、難民にしてしまう原因だと。  私も確かにその通りだとは思う。しかし、ではイスラエルがパレスチナ難民の帰還を受け入れて彼らにイスラエル市民権を与えれば問題は解決するのだろうか。現在のイスラエル政府にそれを望むことが現実的かどうかを別にしても、これが解決策たりえるのだろうか。  ディアスポラとホロコーストの被害者であったユダヤ人が、今度はパレスチナ人に対してディアスポラとホロコーストの加害者となっている。パレスチナ人とユダヤ人が「共存」する国になったとして、多数派となったパレスチナ人がユダヤ人との真の共存の道を取りうるだろうか。  パレスチナ問題の原因がイギリスの二枚舌政策にあり、イスラエルによるホロコーストを支えているのがアメリカのダブルスタンダード外交にあることは、もちろん充分に批判され続けなければならない。それでも解決する道はどこにあるかを考えたとき、さまざまに絡み合った利害や主張の複雑さ以上に、人間の度し難さを前に呆然としてしまう。  当日は最終回上映後にシンポジウムが開かれ、広河監督の話も聴くことができた。報道写真家である広河氏が映画を製作するにいたった経過をはじめ、「NAKBA」のフランスやレバノンでの上映の様子、会場での質問に答える形でのパレスチナ問題への自身の姿勢などが語られ、夜10時過ぎに終了した。会場は満員で立ち見の人もおり、250名ほどの入りだったようだ。 por Andres退職者夫婦の旅と日常(スペイン・旅・留学・巡礼・映画・思索・本・・・)