エルネスト・チェ・ゲバラ没後40周年記念公開シンポジウム
後藤政子(神奈川大学教授)
太田昌国(「現代企画室」編集長)
伊高浩昭(ジャーナリスト)
2007/10/27立教大学にて

 最初に、司会でもある伊高氏よりこのシンポジウムの意味とゲバラの略歴の紹介があった。次に後藤氏より、ゲバラの何が現在でも人々を惹きつけるのかが、キューバの現状と合わせて報告された。さらに太田氏よりゲバラの思想とその限界が語られた。また、ジャーナリストの工藤律子氏から、先日キューバで行われたゲバラ没後40周年記念式典の様子が語られた。その後、後藤・太田・伊高の三氏による討論と会場から出された質問への応答が行われ、3時間あまりのシンポジウムが終了した。
 近年でも2004年に映画「モーターサイクル・ダイアリーズ」が公開されたり、毎年のように伝記の類が出版されるなど、ゲバラ人気は相変わらずである。特にあのゲバラの肖像はいまだにポスターやTシャツに使われ続け、目にすることも少なくない。現にこのシンポジウムの案内ビラにも使われ、会場でもスクリーンに映し出されていた。しかしゲバラの影響力を考えてみると、現在ではないに等しいように思える。政治的に今でも利用されることはあるにしても、政治的影響力はほとんどない。思想的には、そのインターナショナリズムは彼の行動力とあいまって評価されることが多いが、太田氏も指摘していたように、「国境なきラテンアメリカ」と言ったときに白人的視点から抜け出せず結果として先住民文化を軽視してしまった時代的限界の方が目立つ。そうした中でゲバラ人気が継続しているのは、彼の行動の軌跡がかきたてるロマンチシズムのゆえなのだろう。特に、キューバ革命後に工業相や国立銀行総裁の地位に就きながら、そうした権力をあっさりと捨て去って困難なゲリラ戦に自ら身を投じた姿が、我々を惹きつける。太田氏は「水平主義」という言葉をあてて、反権力の側の内部での権力関係を考えなければならないと強調していた。まさにそれは先日も書いた、反権力が「自らの中に権力を無化するシステムを組み入れるという志向」と重なっている。ゲバラは自身の倫理性によって権力に拘泥しない道を歩んだが、個人の資質に頼ることなくそれを実現する方途が求められていると、あらためて確認することとなった。
 季節外れの台風が最接近した時間にちょうど重なってしまい、風雨の強まる中での会だったが、200人ほどの参加があった。

por Andres

Andres y Amelia日記・コラム・つぶやきエルネスト・チェ・ゲバラ没後40周年記念公開シンポジウム後藤政子(神奈川大学教授)太田昌国(「現代企画室」編集長)伊高浩昭(ジャーナリスト)2007/10/27立教大学にて  最初に、司会でもある伊高氏よりこのシンポジウムの意味とゲバラの略歴の紹介があった。次に後藤氏より、ゲバラの何が現在でも人々を惹きつけるのかが、キューバの現状と合わせて報告された。さらに太田氏よりゲバラの思想とその限界が語られた。また、ジャーナリストの工藤律子氏から、先日キューバで行われたゲバラ没後40周年記念式典の様子が語られた。その後、後藤・太田・伊高の三氏による討論と会場から出された質問への応答が行われ、3時間あまりのシンポジウムが終了した。 近年でも2004年に映画「モーターサイクル・ダイアリーズ」が公開されたり、毎年のように伝記の類が出版されるなど、ゲバラ人気は相変わらずである。特にあのゲバラの肖像はいまだにポスターやTシャツに使われ続け、目にすることも少なくない。現にこのシンポジウムの案内ビラにも使われ、会場でもスクリーンに映し出されていた。しかしゲバラの影響力を考えてみると、現在ではないに等しいように思える。政治的に今でも利用されることはあるにしても、政治的影響力はほとんどない。思想的には、そのインターナショナリズムは彼の行動力とあいまって評価されることが多いが、太田氏も指摘していたように、「国境なきラテンアメリカ」と言ったときに白人的視点から抜け出せず結果として先住民文化を軽視してしまった時代的限界の方が目立つ。そうした中でゲバラ人気が継続しているのは、彼の行動の軌跡がかきたてるロマンチシズムのゆえなのだろう。特に、キューバ革命後に工業相や国立銀行総裁の地位に就きながら、そうした権力をあっさりと捨て去って困難なゲリラ戦に自ら身を投じた姿が、我々を惹きつける。太田氏は「水平主義」という言葉をあてて、反権力の側の内部での権力関係を考えなければならないと強調していた。まさにそれは先日も書いた、反権力が「自らの中に権力を無化するシステムを組み入れるという志向」と重なっている。ゲバラは自身の倫理性によって権力に拘泥しない道を歩んだが、個人の資質に頼ることなくそれを実現する方途が求められていると、あらためて確認することとなった。 季節外れの台風が最接近した時間にちょうど重なってしまい、風雨の強まる中での会だったが、200人ほどの参加があった。 por Andres退職者夫婦の旅と日常(スペイン・旅・留学・巡礼・映画・思索・本・・・)