佐々木俊尚「電子書籍の衝撃」
キンドルやiPadなどの電子書籍用機器が発売され、それらに向けた電子書籍の販売・配信が本格的にはじまりつつある時点(執筆は2010年3月)で、従来の紙の書籍と電子書籍の現在と将来を描くという書。音楽の世界でCDが衰退しインターネットでのダウンロード販売がとって代わろうとしている状況を前例にして、活字の分野(新聞・雑誌・書籍等)も近い将来において電子化が主流になると予想している。書籍の場合は、紙の本が簡単になくなるとは思えないが、との留保をつけてはいるが。
全体の流れは佐々木氏の予想している方向に進むと思われる。
しかし非常に気がかりなのは、こうした潮流にあまりに肯定的であり、その裏返しとして旧来の出版界に対するあまりにも否定的な姿勢だ。
それが典型的に示されているのがp.243に記されている部分だ。
三木卓さんは、「グーグルが(出版文化の)いい部分だけをさらっていく」と金儲けを批判していますが、しかしそもそもなぜ金儲けがいけないのでしょうか。何らかの有用な新しいサービスを提供するのであれば、そこに収益モデルを付与するのは資本主義の社会では当然のことです。
この部分には佐々木氏のIT側に対する、と言うよりもグーグルやアップルに対する批判的視点の欠けた礼賛の姿勢が表れている。
グーグルは、都市部のほとんどの道路を撮影して通行人や車、通り沿いの家や、一部は庭の中までインターネットで流し、世界中の人が見ることができる「ストリート・ビュー」というサービスを提供している。現在では顔や車のナンバーにぼかしを入れるなどの若干の配慮はしているが、それでも人物を特定できるような映像がある。グーグル社は、プライバシー等で問題のある映像は指摘されれば適正に対処する、という対応をとっている。つまりグーグルがプライバシーを侵害し続けたとしても、それは指摘されなかったからで、自社には責任はないという姿勢なのだ。このような企業が全書籍の全文をデジタル・データ化してその収益活動に利用しようとしていることに対して、佐々木氏は何の危惧も抱かない。
また、佐々木氏は金儲けや資本主義を全面的に肯定している。新自由主義の破綻や、無制限の利潤追求がもたらした社会の荒廃を完全に無視しているのだ。
佐々木氏も指摘しているように、取次制度や返本制度などが生み出している弊害があるのは確かだ。しかしグーグルやアップルなどを野放しにした場合の弊害は、はるかに大きいだろう。
電子化の流れの中で、少数の企業による支配を退けて、多様性を維持・発展させる方途を探らなければならない。
por Andres
https://dosperegrinos.net/2010/05/21/%e4%bd%90%e3%80%85%e6%9c%a8%e4%bf%8a%e5%b0%9a%e3%80%8c%e9%9b%bb%e5%ad%90%e6%9b%b8%e7%b1%8d%e3%81%ae%e8%a1%9d%e6%92%83%e3%80%8d/書籍・雑誌キンドルやiPadなどの電子書籍用機器が発売され、それらに向けた電子書籍の販売・配信が本格的にはじまりつつある時点(執筆は2010年3月)で、従来の紙の書籍と電子書籍の現在と将来を描くという書。音楽の世界でCDが衰退しインターネットでのダウンロード販売がとって代わろうとしている状況を前例にして、活字の分野(新聞・雑誌・書籍等)も近い将来において電子化が主流になると予想している。書籍の場合は、紙の本が簡単になくなるとは思えないが、との留保をつけてはいるが。 全体の流れは佐々木氏の予想している方向に進むと思われる。 しかし非常に気がかりなのは、こうした潮流にあまりに肯定的であり、その裏返しとして旧来の出版界に対するあまりにも否定的な姿勢だ。 それが典型的に示されているのがp.243に記されている部分だ。 三木卓さんは、「グーグルが(出版文化の)いい部分だけをさらっていく」と金儲けを批判していますが、しかしそもそもなぜ金儲けがいけないのでしょうか。何らかの有用な新しいサービスを提供するのであれば、そこに収益モデルを付与するのは資本主義の社会では当然のことです。 この部分には佐々木氏のIT側に対する、と言うよりもグーグルやアップルに対する批判的視点の欠けた礼賛の姿勢が表れている。 グーグルは、都市部のほとんどの道路を撮影して通行人や車、通り沿いの家や、一部は庭の中までインターネットで流し、世界中の人が見ることができる「ストリート・ビュー」というサービスを提供している。現在では顔や車のナンバーにぼかしを入れるなどの若干の配慮はしているが、それでも人物を特定できるような映像がある。グーグル社は、プライバシー等で問題のある映像は指摘されれば適正に対処する、という対応をとっている。つまりグーグルがプライバシーを侵害し続けたとしても、それは指摘されなかったからで、自社には責任はないという姿勢なのだ。このような企業が全書籍の全文をデジタル・データ化してその収益活動に利用しようとしていることに対して、佐々木氏は何の危惧も抱かない。 また、佐々木氏は金儲けや資本主義を全面的に肯定している。新自由主義の破綻や、無制限の利潤追求がもたらした社会の荒廃を完全に無視しているのだ。 佐々木氏も指摘しているように、取次制度や返本制度などが生み出している弊害があるのは確かだ。しかしグーグルやアップルなどを野放しにした場合の弊害は、はるかに大きいだろう。 電子化の流れの中で、少数の企業による支配を退けて、多様性を維持・発展させる方途を探らなければならない。 por AndresAndres y Amelia SubscriberDos Peregrinos
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