副題「カストロにキューバを追われたチリ人作家」

1970年12月から翌年3月までチリの代理公使としてキューバに駐在した著者が、赴任終了直後に書いたノンフィクション。

1970年9月にチリでは民主的選挙によって初めてアジェンデ社会主義政権が誕生し、社会主義への期待を象徴するような位置にあったキューバに接近しようと、左派的な姿勢だった著者がアジェンデ政権の外交官としてハバナにわたった。しかしそこで自由の抑圧、著者の友人知人へのキューバ政府機関からの様々な圧力を体感したことで、キューバ、延いては社会主義体制への疑問と幻滅を感じ、アジェンデ政権が同じ轍を踏まないようにと願いつつ、一方ではカストロの魅力に惹きつけられてしまう。それがこの作品を、社会主義礼賛、カストロ心酔ではもちろんなく、また反共プロパガンダにもならない、奥行きのあるものにしている。

1973年9月11日にアメリカ合衆国の全面的支援の下に行われたピノチェト軍事クーデターでアジェンデ政権は倒され、2016年11月25日にカストロも死に、この作品の時代から半世紀が経てしまった。登場人物の多くは亡くなり、大部分は人々の記憶からも消えている。しかしこの作品の価値は、社会主義下の自由や国家と対立する権利といった問題を扱っているところにあるだけではない。偏見と狭量に覆われた他者批判があふれる現在で、批判的視点を持つうえで何を欠いてはいけないかを示しているところにあるように思う。

/images/2020/09/Persona-Non-Grata-scaled-702x1024.jpg/images/2020/09/Persona-Non-Grata-scaled-150x150.jpgAndrés政治・経済・国際書籍・雑誌副題「カストロにキューバを追われたチリ人作家」 1970年12月から翌年3月までチリの代理公使としてキューバに駐在した著者が、赴任終了直後に書いたノンフィクション。 1970年9月にチリでは民主的選挙によって初めてアジェンデ社会主義政権が誕生し、社会主義への期待を象徴するような位置にあったキューバに接近しようと、左派的な姿勢だった著者がアジェンデ政権の外交官としてハバナにわたった。しかしそこで自由の抑圧、著者の友人知人へのキューバ政府機関からの様々な圧力を体感したことで、キューバ、延いては社会主義体制への疑問と幻滅を感じ、アジェンデ政権が同じ轍を踏まないようにと願いつつ、一方ではカストロの魅力に惹きつけられてしまう。それがこの作品を、社会主義礼賛、カストロ心酔ではもちろんなく、また反共プロパガンダにもならない、奥行きのあるものにしている。 1973年9月11日にアメリカ合衆国の全面的支援の下に行われたピノチェト軍事クーデターでアジェンデ政権は倒され、2016年11月25日にカストロも死に、この作品の時代から半世紀が経てしまった。登場人物の多くは亡くなり、大部分は人々の記憶からも消えている。しかしこの作品の価値は、社会主義下の自由や国家と対立する権利といった問題を扱っているところにあるだけではない。偏見と狭量に覆われた他者批判があふれる現在で、批判的視点を持つうえで何を欠いてはいけないかを示しているところにあるように思う。退職者夫婦の旅と日常(スペイン・旅・留学・巡礼・映画・思索・本・・・)