一部は浦上の農家の娘キクと浦上四番崩れで流刑にあった清吉を中心に、幕末から明治にかけてのキリシタン弾圧を舞台に描かれた小説。キクは津和野に流された清吉のために、キリシタンでもないのに清吉が信じた相手だからと大浦教会のマリアに祈り続ける。さらに清吉を少しでも楽にしようと奉行所の役人伊藤清左衛門に金を託すが、清左衛門は、預かった金を懐に入れ、清吉をはじめとしたキリシタンたちに拷問を加える。その上、清吉を助けるためだとキクの体も奪う。清左衛門は、一方でキリシタンやキクに非道を働きながら、他方では自己嫌悪に苛まれてもいる。ある意味では清左衛門はこの作品のもう一人の主人公かもしれない。

私の父方の祖先が浦上四番崩れで流刑にあった可能性があるので、この作品は祖先の経験をも描いているような気がして、興味深く読むことができた。

二部は、大浦教会の信徒で、幼馴染であるサチ子と修平が主人公。第二次大戦下で互いに好意を抱くようになるが、修平は徴兵されて特攻隊に入る。殺人も自殺も禁じる教えを子供のころから受けてきたのに、特攻隊員として出撃することになるのだが、戦争に明確な態度を示さない教会に疑問を抱く。戦時下のキリスト教徒の苦悩を描いた作品。灯台社以外の教会は明確に反戦の姿勢を示せなかったし、そもそもキリスト教会は十字軍をはじめ多くの戦争を積極的に遂行してきたのだから、信者一人一人の疑念や悩みはあったにしても、その解決を教会に求めることがないものねだりだったように思うのだが。サチ子は被爆したが生き残り、長崎時代の記憶を胸にしまったまま平凡な主婦・母として東京郊外で暮らす。

私の母も長崎で被爆し、やがて平凡な主婦・母として東京郊外で暮らした。偶然にもこれら二作品は身近に感じられるものだった。

/images/2020/10/1601544895070-scaled-1024x731.jpg/images/2020/10/1601544895070-scaled-150x150.jpgAndrés書籍・雑誌一部は浦上の農家の娘キクと浦上四番崩れで流刑にあった清吉を中心に、幕末から明治にかけてのキリシタン弾圧を舞台に描かれた小説。キクは津和野に流された清吉のために、キリシタンでもないのに清吉が信じた相手だからと大浦教会のマリアに祈り続ける。さらに清吉を少しでも楽にしようと奉行所の役人伊藤清左衛門に金を託すが、清左衛門は、預かった金を懐に入れ、清吉をはじめとしたキリシタンたちに拷問を加える。その上、清吉を助けるためだとキクの体も奪う。清左衛門は、一方でキリシタンやキクに非道を働きながら、他方では自己嫌悪に苛まれてもいる。ある意味では清左衛門はこの作品のもう一人の主人公かもしれない。 私の父方の祖先が浦上四番崩れで流刑にあった可能性があるので、この作品は祖先の経験をも描いているような気がして、興味深く読むことができた。 二部は、大浦教会の信徒で、幼馴染であるサチ子と修平が主人公。第二次大戦下で互いに好意を抱くようになるが、修平は徴兵されて特攻隊に入る。殺人も自殺も禁じる教えを子供のころから受けてきたのに、特攻隊員として出撃することになるのだが、戦争に明確な態度を示さない教会に疑問を抱く。戦時下のキリスト教徒の苦悩を描いた作品。灯台社以外の教会は明確に反戦の姿勢を示せなかったし、そもそもキリスト教会は十字軍をはじめ多くの戦争を積極的に遂行してきたのだから、信者一人一人の疑念や悩みはあったにしても、その解決を教会に求めることがないものねだりだったように思うのだが。サチ子は被爆したが生き残り、長崎時代の記憶を胸にしまったまま平凡な主婦・母として東京郊外で暮らす。 私の母も長崎で被爆し、やがて平凡な主婦・母として東京郊外で暮らした。偶然にもこれら二作品は身近に感じられるものだった。退職者夫婦の旅と日常(スペイン・旅・留学・巡礼・映画・思索・本・・・)