「宗教とツーリズム」山中弘[編](世界思想社 2012年7月20日)
宗教とツーリズムの関係を扱った11本の論稿を収録している。伝統的な巡礼だけでなく、対象が宗教的意味を帯びた場所である観光、さらには宗教とは直接的には無縁のアニメファンなどによるいわゆる聖地巡礼、そしてアウシュビッツに代表される負の遺産への旅などが対象とされている。
各論文は、対象が様々であるだけでなく、各著者の手法や関心も異なるため、宗教ツーリズムを考える上での入口としては最適のものではないか。
扱われている対象は
・関西私鉄沿線の参詣地
・江の島
・伊勢志摩
・ルルド
・サンティアゴ・デ・コンポステーラ
・四国遍路
・アニメの聖地巡礼
・世界遺産登録
・カーン・ジャハン・アリ廟(バングラデシュ)
・アウシュビッツ
・長崎のキリスト教聖地
ツーリズムの対象となることで、周辺環境も含めた聖地は聖地として生き延びることができる一方、本来の聖地としての姿も変容せざるを得ない。この矛盾を切り抜けるのに、ツーリズムを拒否して衰退を受け入れるか、ツーリズムによる経済的繁栄を図り宗教的意味の変貌を容認するか、ツーリズムを積極的に利用して新たな宗教的意義を模索して行くか。伝統に固執するのでなければ第三の道が望ましいことは明らかだが、現実に「聖地」、ツーリスト、観光業、行政、文化遺産保護団体等の抱える問題が複雑に絡み合って、思いもよらぬ結果を招いている。
サンティアゴ・デ・コンポステーラに関する章では、サンティアゴ巡礼の特徴的なことをいくつか挙げている。
・巡礼の運営には教会よりも世俗の役割が大きいこと。巡礼宿の多くは自治体や個人によって維持されていること。巡礼手帳の発行も世俗の団体で行われていること。それらが必ずしも宗教的動機に基づいて行われているわけではないこと。営利事業としての巡礼宿や、巡礼に否定的な人物がサン・ジャン・ピエ・ド・ポルで巡礼手帳の発行を一手に引き受けていた事例。
・大多数の巡礼者がスペイン国内の巡礼路だけを歩くのは、距離の問題ではなく費用のため。つまりフランスとスペインの物価水準の違いによること。
・ホスト=素朴な農村生活を営む巡礼路沿いの人々と、ゲスト=敬虔な巡礼者との共犯関係。両者の経済格差やホストがゲストの欲求に合わせて行なう行為に鈍感であればあるほど巡礼の意味が強化され、素朴で純粋で美しい巡礼世界を発見してしまう。
・信仰無き巡礼者を大量に集めているサンティアゴ巡礼は、宗教の衰退ではなく、宗教の変化を示しているのではないか。
この最後に点に関しては、更に考察する必要があると思える。
por Andrés
https://dosperegrinos.net/2015/08/01/%e3%80%8c%e5%ae%97%e6%95%99%e3%81%a8%e3%83%84%e3%83%bc%e3%83%aa%e3%82%ba%e3%83%a0%e3%80%8d%e5%b1%b1%e4%b8%ad%e5%bc%98%e7%b7%a8%ef%bc%88%e4%b8%96%e7%95%8c%e6%80%9d%e6%83%b3%e7%a4%be-2012%e5%b9%b47//images/2015/08/bffe8850b994d0e9ca8b3ff4c19f69e3-745x1024.jpg/images/2015/08/bffe8850b994d0e9ca8b3ff4c19f69e3-150x150.jpgサンティアゴ巡礼書籍・雑誌Camino,Santiago,サンティアゴ,巡礼宗教とツーリズムの関係を扱った11本の論稿を収録している。伝統的な巡礼だけでなく、対象が宗教的意味を帯びた場所である観光、さらには宗教とは直接的には無縁のアニメファンなどによるいわゆる聖地巡礼、そしてアウシュビッツに代表される負の遺産への旅などが対象とされている。各論文は、対象が様々であるだけでなく、各著者の手法や関心も異なるため、宗教ツーリズムを考える上での入口としては最適のものではないか。扱われている対象は・関西私鉄沿線の参詣地・江の島・伊勢志摩・ルルド・サンティアゴ・デ・コンポステーラ・四国遍路・アニメの聖地巡礼・世界遺産登録・カーン・ジャハン・アリ廟(バングラデシュ)・アウシュビッツ・長崎のキリスト教聖地ツーリズムの対象となることで、周辺環境も含めた聖地は聖地として生き延びることができる一方、本来の聖地としての姿も変容せざるを得ない。この矛盾を切り抜けるのに、ツーリズムを拒否して衰退を受け入れるか、ツーリズムによる経済的繁栄を図り宗教的意味の変貌を容認するか、ツーリズムを積極的に利用して新たな宗教的意義を模索して行くか。伝統に固執するのでなければ第三の道が望ましいことは明らかだが、現実に「聖地」、ツーリスト、観光業、行政、文化遺産保護団体等の抱える問題が複雑に絡み合って、思いもよらぬ結果を招いている。サンティアゴ・デ・コンポステーラに関する章では、サンティアゴ巡礼の特徴的なことをいくつか挙げている。・巡礼の運営には教会よりも世俗の役割が大きいこと。巡礼宿の多くは自治体や個人によって維持されていること。巡礼手帳の発行も世俗の団体で行われていること。それらが必ずしも宗教的動機に基づいて行われているわけではないこと。営利事業としての巡礼宿や、巡礼に否定的な人物がサン・ジャン・ピエ・ド・ポルで巡礼手帳の発行を一手に引き受けていた事例。・大多数の巡礼者がスペイン国内の巡礼路だけを歩くのは、距離の問題ではなく費用のため。つまりフランスとスペインの物価水準の違いによること。・ホスト=素朴な農村生活を営む巡礼路沿いの人々と、ゲスト=敬虔な巡礼者との共犯関係。両者の経済格差やホストがゲストの欲求に合わせて行なう行為に鈍感であればあるほど巡礼の意味が強化され、素朴で純粋で美しい巡礼世界を発見してしまう。・信仰無き巡礼者を大量に集めているサンティアゴ巡礼は、宗教の衰退ではなく、宗教の変化を示しているのではないか。この最後に点に関しては、更に考察する必要があると思える。por AndrésAndrés andres@nifty.comAdministratorDos Peregrinos
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