この1年あまりのトランプ現象とは何かを考えてみる。

トランプ氏が大統領候補に名乗りを上げてからの泡沫候補扱い、共和党候補となってからのトランプ敗北確実視、トランプ当選後の株価暴落、当選演説後の株価高騰、トランプのツイッター投稿への反応、当選後初の記者会見後の株価下落。これらの狂乱、右往左往ぶりを冷笑していても状況の本質は明らかにならないので、考察をまとめておきたい。

トランプの当選が決定する瞬間までメディアが落選を予想し続けたことについては、メディアが情勢を見誤ったとか、隠れトランプの存在があったと言われていて、それは確かにその通りだろう。メディアによるトランプ叩き、それをさらに煽るかのようなトランプの露悪趣味。そんな中でトランプ支持を明言するのはためらわざるを得ない空気があったのだろうことは十分に想像できる。しかし「没落する中産階級」にとってみれば、トランプの政策がどうとか言う以前に、ヒラリーでは絶対にだめだという判断があったのだろう。「チェンジ」を訴えて熱狂的に迎えられたオバマ大統領が、好意的に見ても変革を成し得なかった、皮肉な見方をすれば本気で変える気がなかったことが8年間で明白になった後で、ヒラリーにオバマ以上のことを期待できると考える人はいなかっただろう。つまり、ヒラリーでは変革の可能性はゼロ、トランプなら変化の可能性は50%。トランプのもたらす変化で良くなるか悪くなるかは半々。ならばトランプで良くなる25%に賭けてみようと考えるは不思議ではない。ニューヨークタイムズがどう書こうが、メリル・ストリープが何と言おうが、彼らは結局現状から大きな利益を得ている人々であって、没落し冷遇されている人々には彼らの言葉は届かないのだ。

株価の動きはどうか。近年の株価が実質経済を反映するものではなく、投機的動機に左右されていることを考えると、これまでの変動はトランプの政策への期待感とか失望を表しているものではなく、期待や失望を利用した株価操作による投機利益追求の結果でしかない。
 
問題はこれからだ。だが私が言いたいのはトランプの政策でアメリカ経済が成長し「没落する中産階級」が救われるかどうかではない。アベノミクスも含めて、成長戦略が成功するかどうかが問題なのではなく、成長戦略をとることそのものが間違いなのだ。繰り返すが、トランプはまだ具体策を提示していないのでアベノミクスを例にして言うと、マイナス金利が経済成長につながるかどうかとか、財政出動で発展するかなどは問題でないどころか、問題の本質を隠すものでしかないのだ。
現在の地球がどの程度の経済規模を支えうるのかは知らないが、有限であることは確かで、発展途上国が経済成長を遂げた時に地球がそれを維持できるかどうかこそが問題なのだ。中国の経済発展で石油が不足するとか鉄鋼が値上がりする、漁業資源が枯渇するとかコーヒーやワインの価格が上昇するといって騒いだのはまだ記憶に新しい。中国の一部の人たちの所得が上昇しただけでも慌てる人々が、途上国の生活水準の上昇がどのような影響を及ぼすかは考えないのか。
まだ私たちは現在の資本主義に代わる経済システムを構想できていない。これに対して「対案を示せ」と居丈高に迫る顔が見える。しかし対案はまだなくとも、先進国が経済成長を目指すべきでないことだけは確かなのだ。成長論者はリアリストを自称するが、途上国の人々の生活向上を認めないエゴイストか、将来の人々の資源を先取りして費消してしまう利己主義者なのだ。
トランプの政策に期待できるものがあるとは思えない。しかしそれはヒラリーに期待できない、オバマに期待できなかったのと同等なのだ。
por Andrés
Andrés政治・経済・国際この1年あまりのトランプ現象とは何かを考えてみる。 トランプ氏が大統領候補に名乗りを上げてからの泡沫候補扱い、共和党候補となってからのトランプ敗北確実視、トランプ当選後の株価暴落、当選演説後の株価高騰、トランプのツイッター投稿への反応、当選後初の記者会見後の株価下落。これらの狂乱、右往左往ぶりを冷笑していても状況の本質は明らかにならないので、考察をまとめておきたい。 トランプの当選が決定する瞬間までメディアが落選を予想し続けたことについては、メディアが情勢を見誤ったとか、隠れトランプの存在があったと言われていて、それは確かにその通りだろう。メディアによるトランプ叩き、それをさらに煽るかのようなトランプの露悪趣味。そんな中でトランプ支持を明言するのはためらわざるを得ない空気があったのだろうことは十分に想像できる。しかし「没落する中産階級」にとってみれば、トランプの政策がどうとか言う以前に、ヒラリーでは絶対にだめだという判断があったのだろう。「チェンジ」を訴えて熱狂的に迎えられたオバマ大統領が、好意的に見ても変革を成し得なかった、皮肉な見方をすれば本気で変える気がなかったことが8年間で明白になった後で、ヒラリーにオバマ以上のことを期待できると考える人はいなかっただろう。つまり、ヒラリーでは変革の可能性はゼロ、トランプなら変化の可能性は50%。トランプのもたらす変化で良くなるか悪くなるかは半々。ならばトランプで良くなる25%に賭けてみようと考えるは不思議ではない。ニューヨークタイムズがどう書こうが、メリル・ストリープが何と言おうが、彼らは結局現状から大きな利益を得ている人々であって、没落し冷遇されている人々には彼らの言葉は届かないのだ。 株価の動きはどうか。近年の株価が実質経済を反映するものではなく、投機的動機に左右されていることを考えると、これまでの変動はトランプの政策への期待感とか失望を表しているものではなく、期待や失望を利用した株価操作による投機利益追求の結果でしかない。   問題はこれからだ。だが私が言いたいのはトランプの政策でアメリカ経済が成長し「没落する中産階級」が救われるかどうかではない。アベノミクスも含めて、成長戦略が成功するかどうかが問題なのではなく、成長戦略をとることそのものが間違いなのだ。繰り返すが、トランプはまだ具体策を提示していないのでアベノミクスを例にして言うと、マイナス金利が経済成長につながるかどうかとか、財政出動で発展するかなどは問題でないどころか、問題の本質を隠すものでしかないのだ。 現在の地球がどの程度の経済規模を支えうるのかは知らないが、有限であることは確かで、発展途上国が経済成長を遂げた時に地球がそれを維持できるかどうかこそが問題なのだ。中国の経済発展で石油が不足するとか鉄鋼が値上がりする、漁業資源が枯渇するとかコーヒーやワインの価格が上昇するといって騒いだのはまだ記憶に新しい。中国の一部の人たちの所得が上昇しただけでも慌てる人々が、途上国の生活水準の上昇がどのような影響を及ぼすかは考えないのか。 まだ私たちは現在の資本主義に代わる経済システムを構想できていない。これに対して「対案を示せ」と居丈高に迫る顔が見える。しかし対案はまだなくとも、先進国が経済成長を目指すべきでないことだけは確かなのだ。成長論者はリアリストを自称するが、途上国の人々の生活向上を認めないエゴイストか、将来の人々の資源を先取りして費消してしまう利己主義者なのだ。 トランプの政策に期待できるものがあるとは思えない。しかしそれはヒラリーに期待できない、オバマに期待できなかったのと同等なのだ。 por Andrés退職者夫婦の旅と日常(スペイン・旅・留学・巡礼・映画・思索・本・・・)